日韓関係、問題はどこにあるのか ― 2.「歴史司法化」を超えて (1)新日鉄徴用判決を読む<2>

<2>判事多数の判断–個人請求権は有効だ

 この判決をめぐる主要論点は、植民地支配による被害に対する「個人請求権」がまだ存在するのどうか、という点にあった。
 しかし今回の判決に判事全員が賛成したわけではない。半分以上の判事が個人請求権は有効としたが、その理由を以下のように述べている。
 当時の韓国政府が、「他国の国民を強制的に動員することで被らせた被徴用者の精神的、肉体的な苦痛について言及」(強調筆者)し、「12億2000万ドルの要求額のうち3億6400万ドル(約30%)を強制動員被害補償に当てるものとして算定」するも、それは「大韓民国や日本の公式的な見解ではなく、具体的な協議過程で交渉担当者が口にした言葉に過ぎ」ず、担当者の被徴用者の苦痛に関する言及は、「交渉において有利な位置を確保しようとする目的ゆえの発言に過ぎないものと見なし得る余地が大」きい、と。
 さらに、韓国が12億ドル以上を要求したのに「請求権の協定は3億ドルで妥結」されたので、「このように要求額を満たしていない3億ドルのみ受け取った状況では、強制動員をめぐる慰謝料請求権をも請求権協定の適用対象に含まれるとは言いがたい」としている。日本が「具体的な徴用/徴兵の人数や証拠資料を要求したり、両国の国交が回復された後個別的に解決するための方法を提示するなど、大韓民国の要求にそのまま応じることはできないとする立場を披瀝」して反発していたので、当時の日本が韓国の「被害賠償」要求に応じたとみなすことはできない、としているのである。
(日本は、個別に証拠を探し出して請求権を算定するのは容易ではなく、結局は金額が少なくなるはずだから、有償/無償の経済協力という形で金額を上げるやり方で請求権問題を解決しようとした。)
また、請求権とは「植民地支配の不法性に基づく請求権」であったが、「日韓条約に植民地の不法性は言及されていないので植民地支配による被害に対する賠償」は含まれていないと見なすべきだとしている。つまり、日本からのお金は、文面のみならず実質的にも経済協力資金で、植民地支配に対する賠償性格を持つものではなかった、とするのが判事多数の判断であった。判決は、そのような主張が多数だった結果としてのものだった。

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