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ジェンダー平等のテーマ中途半端に 水無田 気流

 従軍慰安婦を国家主義や植民主義における女性搾取という普遍的問題から問う研究書に、韓国の世宗大学教授・朴裕河『帝国の慰安婦ー植民地支配と記憶の闘い』がある。同書をめぐっては、元慰安婦らの名誉が傷つけられたとしてソウル高裁が朴に有罪の判決を出した。同書は日本の責任を問う一方で、女性たちを収奪した責任の一端を朝鮮の民間業者にも見る点などが削除を要請された。まさに「表現の自由」が争われた事例といえる。
朴は、森崎和江の『からゆきさん』を引き、こう述べる。韓国併合以前から、朝鮮半島に渡って来た日本人男性の相手をするため、困窮の末や騙されて身売りされてきた日本人女性(=からゆきさん)はいた。彼女たちを、国家権力と民間業者は黙認してきたが、その意味で「『慰安婦』の前身は、『からゆきさん』、つまり日本人女性たちである」と。
からゆきさんと慰安婦をつなぐ線は、日韓の国際政治の現状を超え、深く苦しい女性搾取の歴史と戦争の暴虐性にたどり着く。

東京新聞(夕刊) 「社会時評」 2019年9月24日